柔らかく感じられる陽射しがオレンジ色に空を染め、やがて木々が影を落とし黄昏がおとずれると、
無性に聴きたくなるのがショパンの夜想曲、ノクターンだ。

ショパンは生涯を通して21曲の夜想曲を書いた。

この21曲は、私には彼の一生を綴った日記のように思われる。

その日、その時のショパンの心の声になって音に紡がれた思いがする。

ある日、窓の外を降りしきる雨をながめながら、ある時、愛に満ちた日、深い慈しみがあふれ出るように。

そして若くして肺結核を患い、死を見つめて生きていった彼の人生の後半から、
ノクターンの作品に色濃く彼自身が語られているようで切ない。

”研ぎ澄まされた貴族精神”と言われた彼の、特に私が惹かれる部分は、
孤高にして高貴を感じさせる男性的なショパン像だ。

安易なセンチメンタルに流されない美しさが好きだ。

その男性的なショパンと孤高の美しさの最高傑作がノクターン作品48-1だ。

長年、私の心を捉えて離さずにいる曲である。

どんな時もこの楽譜を前にすると、ハァと深いため息が出て、私は身づまいをただす。

死を見つめた孤高の中、”ひたむきに生きること”を求めた切ないまでに美しいこの曲は、
中間部分、神の前に膝まずく彼の姿があり、清らかなコラールが響く。

彼のお葬式かもしれない。

でも、イヤ、そんなんじゃない、”生きたい!”という彼の情熱が湧きあがり、
悶々と切なく美しい旋律が蘇り、テンポが速まり、男性的なショパンが叫ぶ。

演奏していて、彼のその強さと切なさに打ちひしがれる。

大地からワクワクと生命が息吹き、根を張った木々が伸びをするように生命にあふれ花咲かせるとき、
その生きる強さを美しい旋律にのせたショパンの音楽は、切なさとともに明暗を秘めていて、胸に迫る。